初めてのMCバトル【レポート】
先日、渋谷familyで行われたMCバトルに参加してきた。大会の名前は【戦極第18章関東予選】だ。関東のMCが渋谷に集まる。
この予選で優勝、準優勝すれば、zeppダイバーシティで行われる戦極第18章本選に参加することができる。zeppダイバーシティのステージでマイクを握ることができるのだ。人生でそんな機会は滅多に訪れない。戦極第18章関東予選は、そこへ繋がる道である。
そんな戦極第18章関東予選という舞台に、MCバトルもサイファーしたことがない私が参加してきた。観客ではなく、プレイヤーとして。
プレイヤーとしてのレポート
この経験で学んだことが沢山あったし、MCバトルへのリスペクトの気持ちが大きくなった。レポートする形で記述していく。各バトルのレポートはしない。バトル参加の流れから記述し、MCバトルへの感想やら何やらを書いていく。
今回のレポートは、その場その場でメモしたものを軸にして書いていく。
以下、レポート
バトル参加までの流れ
5月某日。Twitterを見ていると【戦極MCバトル第18章関東予選-エントリー】の文字を発見する。
今まで、バトルイベントは観客としてしか参加したことがない。しかし、いつかはバトルに出てみたい思いもあった。
自分の活動を広めるためにエントリー
音源をYouTubeにアップしても誰にも見てもらえないのは、名前が全く売れていないことと、HIPHOPの知人が全くいないことが原因だった。
それらを解消するためには、バトルに出てみることが一番ではないか?と思っていたからだ。自分の活動を広めるためにも、意を決してエントリーする。
数日後、戦極の公式HPにエントリー者の名前が掲載された。そこには、私のMCネーム【Otemae】(おてまえ)がしっかりと載っていた。
それが5月の半ば頃だった。大会まではおよそ二週間ある。かなり緊張しながらこの期間を過ごした。
怯えて過ごした大会前
ネタを仕込んだほうが良いのだろうか。大きな恥をかくんじゃないだろうか。酷くディスられて心に傷がつくんじゃないだろうか。言葉に詰まってしまったらどうしよう。
色々と悩んだが、いくら悩んでも答えは出ないし相談する相手もいないので、数日前からは意識しないように心掛けた。
当日のエントリー
そして、当日を迎える。当日のレポートにはメモが混じるのでちょっと読みにくいかもしれない。
渋谷駅を降りて渋谷familyへ向かう。エントリー者は14時集合だったので、13:55に渋谷familyに入る。勝手が分からず、会場内を右往左往していると、八文字氏に「エントリー?ああ、ごめんね、もう少し外で待っててくれる?」と言われる。
先走ってしまったみたいだった。familyを出て、外のガードレールに腰かけて号令を待つ。数分後、「エントリーの人は並んでください」との指示が聞こえた。
ゾロゾロと待機していたMCが集まり、あっという間に列ができる。私は結構早めに並ぶことができた。
エントリーの列に並んでいると、「2000円と自分のエントリー番号を用意してください」というスタッフの声が聞こえた。
戦極のHPを見て自分のエントリー番号を確認する。43番だった。2000円を用意する。自分の順番が回ってきた。
正社員氏と八文字氏に受付してもらう
エントリーの受け付けは正社員氏と八文字氏と女の子の3名で行っていた。現場に立っているんだ、と思ったことをよく覚えている。
「番号を教えてください」と言われたので「43番です…」と正社員氏に伝える。すると「43番…MCネームはなんですか?」といわれてしまい、恥ずかしい面持ちで「…おてまえです」と答えた。
MCネームを人に話したことなんてなかったので、小恥ずかしくなってしまったのだった。
「おてまえさんね…はい、じゃあカードを一枚引いてください」と正社員氏が手続きを進める。指示の通り、カードを一枚引く。
自分の番号は5番だった
番号は5番。5番…ものすごく早い数字な気がする…。今回、バトルにエントリーしている人は刺客を含めると80名近い。5番はかなり早い段階で回ってくるのではないだろうか…。
「5番ですね。はい、じゃあ次はトランプを引いてください」との指示。丸いテーブルの上でバラバラに散らばっているトランプを一枚引く。
引いたトランプはダイヤのA。何か意味があるのだろうか。トランプは自分で持っておくように言われ、私のエントリーが終了した。
エントリー終了後は会場内で待つように言われたので、隅っこに陣取って帽子を深くかぶった。
すべてのMCがエントリー終了
割と早い段階で並んでいたため、後ろには長い列ができていた。その列には、動画で観たことある人や一度は名前を聴いたことがあるMCなど、強そうなMCたちが沢山いた。
しばらくして全てのMCのエントリーが終了し、会場内がMCでいっぱいになった。
ルール説明 「奇数が先攻」
正社員氏と八文字氏から、大会のルールについて説明が始まった。
「先ほど引いた番号ですが、先攻と後攻に関係しています。基本的には、小さいほうが先攻になります。だから、一回戦は奇数の人が先攻です」とのこと。
なるほど、私は5番だから先攻か。まじか…。初めてのMCバトルで先攻か。どうしようと戸惑うが、意外とすんなり落ち着いた。非日常の雰囲気に酔っていたのかもしれない。
「トランプは、会場を一度だけ出入りできるチケットになります。それがないと入場料を取られるので気を付けてください」とのこと。
なるほど、特に絵柄に意味はないのか。説明が終わると、いったん会場から掃けるように指示を受けた。
いったん会場を後にする
familyを出て左に曲がり、とりあえず近所のカフェに入った。Wi-Fiも充電もあるめちゃめちゃ良いカフェだ。【カルチャーエージェントブック&カフェ】と書いてある。
イベント自体は15:00からなので、15:00になったら行こうと決め、アイスコーヒーを頼んだ。
会場入りし、トーナメントを確認する
15時になり、会場に入る。お客さんがたくさん入っていた。
今日のチケットは3500円なので、決して安くはない。およそ100人くらいはいただろうか。
「これだけの人の前でフリースタイルやるのか…」と気が滅入ってしまった。トーナメント表が張り出されていたので、自分の試合を確認する。
自分の試合は1回戦の第3試合
1回戦の第3試合だった。やはり早い。相手はファルコンというMC。聞いたことのない名前だった。
驚いたのは、すぐ下にTKda黒ぶち氏の名前があったこと。一回勝てば当たる。
初戦を突破できるイメージも湧いていなかったが、「勝ったらTKさんと試合が出来る!」と意識が高揚した。
DJタイムとLIVEを経て、ついにMCバトルがスタートした。私は3試合目だったので、すぐに順番が回ってくる。
ビートは4試合ごとに変更されるので、私は前の2試合でビートの乗り方やテンポを確認することができた。
乗りやすそうなビートだった。「これなら乗れるかもしれない」と少し気分が乗る。
1試合目からバチバチの試合が繰り広げられた。「こんなに上手いんだ…」と軽く絶望したことを覚えている。しかし、それを見ていたら、緊張していたからだが徐々にほぐれてきた。
ビートが流れてそれに合わせてラップをする。それを近くで聴いている。それだけでちょっとずつ体が揺らせるようになっていった。ヒップホップが体に染み付いてきたのかもしれない。
2試合目も大盛り上がりで終わり、ついに自分の出番が回ってきた。
【自分のバトル】vs MCファルコン
八文字氏に「次の試合は、先攻がMCOtemae!後攻はMCファルコン!上がってきてください!」とコールされる。
何故か緊張していなくて、不思議な高揚感に包まれていた。ただ、何も考えられない。
緊張していないのに頭が真っ白な状態でステージに上がった。
MCファルコンは高校生くらいの印象で、可愛い顔をしていた。マイクを握り、「エイ!エイ!」と声の通りとマイクのスイッチを確認する。
そうこうしているうちに、八文字氏からバトルスタートの号令がかかり、キュッキュッとビートがスクラッチを始めた。
何も思いつかないままバトルがスタート
ビートが始まってしまう。やばいやばい何も思いついていない何を話せばいいんだ、と一瞬だけ思考が錯綜する。
しかし、小節が始まり、ビートに合わせてラップを乗せると、錯綜した思考はどこかへ消し飛んだ。
とりあえず思ったことを素直に吐き出した気がする。何を話したのかはほとんど覚えていない。そのときの景色もよく覚えていない。
よく覚えているのは、MCファルコンが上手かったことと意外とビートからずれずに済んだこと。
よくわからないままバトルが終了
良く分からないままバトルが終わった。
私はMCファルコンと目も合わせられなかったし、観客を盛り上げることもできなかった。
MCファルコンは私を的確にディスったうえでしっかりと韻を踏んでいた。
内容はよく覚えていないが「しっかり韻を踏むしディスも上手いなあ」と、試合中に思ったことだけ覚えている。
完敗
八文字氏が「じゃあ声を聴かせてください。先攻、MCOtemae!」と観客に尋ねる。
会場がシーンと静まり返る。誰も私には声を上げなかった。
続いて「後攻、MCファルコン!」と八文字氏が観客に尋ねると、「オオオオオオ!!!」と大きな歓声が上がった。
完敗だった。ちなみにMCファルコンも初バトルだったらしい。負けてしまったけど、初バトル同士で泥試合にならずに済んだことは嬉しかった。
八文字氏が「両方MCバトル初めてだったんですね~、でも良かったです」と言っていた。確かに、MCファルコンは初めてと思えないくらい上手かったと思う。
MCファルコンと挨拶を交わし、ステージから降りる。挨拶の仕方が分からず無愛想になってしまった。
ステージに上がってから降りるまで、3分も経っていなかったと思う。
あっという間に、私の初バトルは終わってしまった。
MCバトルに初めて参加してみて思ったこと
はじめてMCバトルにでた。初めて人前でフリースタイルをした。完敗だった。でも、なぜか心地よかった。
仲間と遊んだみたいな心地良さだった。
全然上手くないし、目も上げられないし、観客の方も観れなかったけど、温かさを感じた。誰も、下手な俺を笑う人はいなかった(多分)。
皆、ヒップホップが好き
あのクラブの空間は、HIPHOPが好きな人たちしかいない。
ディスりあうMC同士も、HIPHOPが好きな仲間だ。バトルにでてしまうくらいHIPHOPが好きな仲間同士だ。
ディスには必ずリスペクトが込められている。ただ相手を貶すのではなく、「お前もやばいけど俺のほうがもっとやべえぜ!?」と、セルフボースを含めて相手に攻撃する。
言葉の上ではディスり合うのに、心の底では認め合ってる。
MCは観客とも勝負している
しかも、MCバトルにはお金を払って見に来てくれている観客がいる。勝敗は彼らが決める。だからMCは観客を無視してラップしない。
「なあ観客の皆!俺のほうがやばいだろ!?こんなスキルがあるんだぜ!」と魅せるラップを心がける。
MCは、観客とも勝負しているってことだ。私はそれを肌身で感じ、「MCバトルってすげえ」と思った。
トランス状態にならなければいけない
MCバトルで勝つというのは、相手のMCと観客にどれだけやばいと思わせられるかの勝負だ。
だから、腹を割ってラップが出来ないやつは勝てない。変に格好付けてたり自分をさらけ出せない奴に観客は声を上げない。
ある種トランス状態にならなければいけないのだ。
リスペクトを込めたうえで裸の魂と魂をぶつけ合い、自分の存在証明を高らかに叫んだ奴に、観客は手と声を上げる。
MCバトルに限らず言えることだが、人間がトランス状態に入るほど本気になっている姿はとんでもない熱量とエネルギーがあって、人を魅了する力がある。
強いMCたちに共通していえることは、自らに強い魂を持ってそれをぶつけ合えるということだ。
砕けることを畏れながらも、ぶつけにいける強さを持っている。
そこにはドラマが生まれるし、人々を魅了するような名バトルがある。つまり、魂を賭けに出し勝負する覚悟がなければMCバトルでは勝てないということだ。
3500円払って見に来るバトルじゃない
タクヤイデというMCが「今日のバトルは3500円払って見に来るバトルじゃねえ!!」というラインを吐いていた。
私はこれを聴いて耳が痛かった。
私は、自分の言いたいこともまともに言えずに観客を上げることもできなかったくせに「負けてしまったけどなぜか心地いいな」なんて思ってしまったのだ。
そう、今日のバトルは3500円払って見に来ている観客がいる。
観客は安くないお金を払って、MCバトルに魅了されに来たのだ。
私は、80名近くいるMCの一人として、MCバトルに魂を懸けて本気で臨まなければいけなかった。観客も相手のMCにもやばいって思わせる覚悟が必要だった。
なのに、私は特に傷もつけられないままステージから降りてきた。
負けてもあまり悔しくないなんて言うのは、私がそれに懸けていなかった証明であり、生半可な気持ちでバトルにでてしまった証明でもある。
MCは観客を魅了する義務がある
今はMCバトル隆盛期というだけあって、初心者や未経験者でも簡単にエントリーすることができる。
しかし、これから初めてMCバトルに参加する人たちに、初めてMCバトルに参加した私から言えることは、ステージに立ってマイクを持つことは、観客がいるからこそ成り立っているということだ。
お金や時間を使って見に来てくれる観客たちがいる。だから、ステージに立ち、マイクを持つ以上は、観客たちを魅了させる義務があると思う。
そしてそのためには、自分の大事なものを傷つけられたり、魂まで賭けに出さなくてはいけなかったりする。
また、MCバトルで勝つというのは相手の魂を叩き潰すということだ。それはとても怖いことだし、勇気のいることだ。
私はとても臆病なので、色々なことをはんなりと受け流してきた。本気になることを畏れてきた。
しかし、その本気にこそ人間の心を動かすような魅力が在る。それにこそ、観客は手と声を上げる。
本気になってマイクを握れる人間だけ
だからこそ、覚悟を持って本気でマイクを握るべきだ。今現在、現場にいるMCたちは、皆その覚悟をもって本気でぶつかり合っている。
それで失敗したとしても、本気でぶつかり合ったMCを嘲笑うような人はいない。何故なら、会場にいる皆んなはHIPHOPが好きな仲間だからだ。
自分の魂を懸けにだし相手の魂を叩き潰す覚悟がなければ、マイクを握るべきではないのかもしれない。だけど、本気になった自分を笑う人なんて誰もいない。
初めてMCバトルに参加して、私はそう思った。
今後、MCバトルに参加しようか迷っている。本音をぶつけ合うことが苦手な私は、覚悟をもってマイクを握ることが出来ないかもしれない。
お金を払って見に来てくれている観客に、何も返せないかもしれない。
しばらくは色々と悩みそうだ。
しかし、今回MCバトルに参加して本当に良かったと思っている。参加しなければ分からないことが沢山あったし、MCたちがどれだけの熱量を持ってバトルに臨んでいるのか、肌身で直接感じることが出来た。
今後も、いちヘッズとして日本語ラップを追っていきたいと思う。
追記:
戦極17章は生で観に行ったのだけど、最高だった。
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