2PACの波乱ある人生を描いた映画『オールアイズオンミー』
『オールアイズオンミー(ALL EYEZ ON ME)』は、ヒップホップの本場であるアメリカにおいて絶大な支持を受けたラッパー”2PAC”、彼の波乱万丈な人生を元にしたノンフィクションの映画作品だ。
2PAC(本名:トゥパック・シャクール)は、25歳という若さでこの世を去っており、まさにこれからというときに死んでしまった。
アルバムの総売り上げ枚数は、なんと7500万枚。彼がどれだけ多くの人たちから愛されていたのかが良く分かる。
『オールアイズオンミー』では、2PACが歩んできた人生や取り巻いていた環境、数多くの名曲がどんな背景を持って作られていたのかなど、ラッパー”2PAC”の詳細な情報のほか、アメリカにおいてヒップホップがどのように育ったのかなどが分かる。
私は2PACのことをほとんど知らない状態でこの映画を観たけど、とても面白かった。ヒップホップにそこまで関心がなくても、映画そのものが面白いので、観て損をすることはないだろう。
この記事では、『オールアイズオンミー』の簡単なあらすじと、映画に対する私の感想を書いていく。
映画『オールアイズオンミー』のあらすじ
1971年に生まれたトゥパック・シャクールは、ラッパーになる夢を追い続け、1991年にソロデビューを果たす。俳優としても活躍し多方面から注目される中、レコーディングスタジオで強盗に銃で撃たれてしまう。一命は取り留めるが、事件現場にライバルレーベルのザ・ノトーリアス・B.I.G.らが居合わせたことから、トゥパックは彼らの関与を疑い……。全文引用
引用元:解説・あらすじ - オール・アイズ・オン・ミー - 作品 - Yahoo!映画
映画『オールアイズオンミー』の感想とレビュー
2PACのリリシズム
『オールアイズオンミー』を観ていて思ったことは、2PACはリリシズムと愛に溢れた知的な人物だったんだなということ。
2PACは、自分の音楽にはっきりとしたコンセプトとプライドを持っていた。
ラッパーとして自身が発する言葉には社会的な意義があり、ゲットー出身の人間として真実を代弁する使命がある。彼のリリックやインタビューには、そういった強い想いが詰まっているように感じた。
また、彼はシェイクスピアも好きだったようだ。劇中でシェイクスピアのサンプリングが何度も登場する。
ラッパーには詩を愛する人が多いけど、2PACも詩人としての一面を持っていたみたいだった。
なぜ2PACは愛と知を忘れなかったのか
2PACは、現在の日本では想像もつかないような場所から、這い上がってきている。
FBIから追われる革命家の両親を持ち、引っ越し初日に目の前で人が死ぬような環境で2PACは育った。
しかし、そんな環境の中でも愛と知を彼は忘れなかった。それは何故なのか?
おそらく、母親の愛が大きく関係しているんだと思う。
2PACの母親は、まさに強い母だった。2PACに愛を説き、どんなに惨めな思いをしても誇りだけは捨ててはいけないと教えた。
その教えの通り、2PACは誇りをもって言葉を紡いでいった。曲のリリックから、彼が込めたメッセージを感じ取れるだろう。
2PACは、母親の強い意志を受け継いだからこそ、ゲットーの環境でも気高く生きられたんだと、私は思う。やはり、人間は育ててくれた人に強く影響される。
何もかもをその背中から学ぶのだろう。
心を強くつかまれた台詞
しかし、2PACの母親も人間であり、強さの裏面に弱さを持っていた。2PACが少しずつ売れ始めた頃、母親には不安定な時期があり、薬に手を出してしまう。
そのことを知った2PACは母親に激怒し、ある台詞を言った。その台詞が私の心を強くつかんだので、紹介したいと思う。
その台詞とは「自分に負けちゃだめだ」である。
2PACにとって母親とは偉大な存在であり、自分に誇りと勇気を教えてくれた生き方の師でもある。そんな母親が、薬などというものに逃げていることが許せなかったのだろう。
この台詞は「あなたは薬はおろか、自分にだって勝ち続ける人のはずだ」という、母親への敬意と諦念と望みが混じり合ったもので、まさに母親に向けた息子の叫びそのものだ。
2PACの母親は薬であったが、それは一例に過ぎない。
薬に限らず、私たちの日常には似たような叫びが散りばめられている。そして、その叫びの理由とはこの2PACが抱いていた感情なのだろう。
母親への尊敬やこうあって欲しいという望み。母親の注ぐ無償の愛ってやつは、子供に尊敬や憧れの念を抱かせる。子供は、自分を生んでくれた、愛してくれた母親にリスペクトをするものだ。
だから、そんな母親が挫けてしまいそうなときは、「ママ、自分に負けちゃだめだ!
ママは強い人だからきっと大丈夫だ!」といって励ましてやる。
これが、母と子という関係でなければ、期待を背負わされた可哀想な人間と見えるかもしれない。
しかし、母親というのは、この励ましで必ず強く立ち上がる。
そして、またもう一度子供に「母親」を見せてあげるのだ。
2PACの「自分に負けちゃだめだ」という台詞には、そんな母と子の関係性が表れているような気がした。
このシーンについて、残酷であると同時に美しいと、私はそう感じる。
もう一つの印象的なシーン
このシーンと関連して、もう一つ印象的な場面がある。
それは、2PACが無実の罪で刑務所に入れられてしまい、母親が面会にきてくれたときのシーンだ。
はめられるような形で投獄されてしまった2PAC。いつもは強気で己の信念を忘れない2PACも、さすがに弱気になってしまう。
母親との面会で2PACは「母さんの言った通りだ。武器を渡され、自滅した」と話している。これは、母親が過去に言っていた台詞で、
「大きな体制ってやつはマイノリティ側に武器を渡してくるが、それはこちらの自滅を誘うためなんだから、武器を手にした時こそ気をつけなさい」
という内容のものだ。
つまり、自分の力で勝ち取ったぞ!と思えても、それは大きな体制による罠かもしれない。という危機感を忘れてはいけない、という教えなのだろう。
2PACは、ラップで大成した思った矢先、罠にはめられてしまった。投獄されこれまでのさまざまなことを振り返ったときに、この母親の言葉を思い出したのだろう。
そして、「母さんの言った通りだ。武器を渡され、自滅した」と口にした。
先ほど紹介した母親が薬に負けてしまったときのシーンと、逆の構図である。2PACの心が折れそうになっている。
そして、母親はそんな2PACに対して厳しくも温かい言葉を投げかけてやる。
生温い慰めや癒しなどは与えず、これから、2PACを待ち受けている厳しい現実たちと戦っていく勇気を与えた。
母親は、そうして刑務所を去っていく。2PACは、こんな状況でも自分を信頼し鼓舞してくれる母親の存在に力強く励まされ、再起を誓うのであった。
そして、母親が刑務所の帰路につく最中、あの名曲「Dear Mama [Explicit]」が流れる。
このシーンは、映画『オールアイズオンミー』の中で最も印象に残ったかもしれない。シーンとしての良さはもちろん、名曲「Dear Mama」がが大きく背中を押しているのは間違いないだろう。
映画『オールアイズオンミー』の感想まとめ
長くなってしまったので、この辺で感想をまとめようと思う。始めに言えるのは、このブログでは語りつくせなかったことが多い。
この映画には、もっと色んなメッセージや感じられるポイントが散りばめられている。ここには、個人として印象に残った部分とそれに対する感想を書いただけなので、これから鑑賞される方はもっと色んなさまざまな感情に揺さぶられるだろう。
ヒップホップが好きな人はもちろん、映画が好きな人、音楽が好きな人でも楽しめる映画なので、ぜひ一度鑑賞してみてほしい。
感想とか聞かせてくれたら、さらにうれしいのでよろしくお願いします。
ラッパーは絶対に観ておこう。活動の糧になる。