億男について|感想も後述
今、話題になっている本《億男》を読んだ。
《億男》が単行本として出版されたのは、今から4年ほど前の2014年10月。
なぜ、4年近くも前に出版された本が、今になって話題となっているのか?
それは、《億男》の映画化が決定されたからだ。
主演は佐藤健と高橋一生の2人で、2018年の秋に公開される予定。
映画化に先駆けて、書店でも《億男》を売り出す動きが活発になっているのか、どの書店でも、お客さんの目につきやすい場所で《億男》が平積みされている。
《億男》自体は、映画化される前から話題になっていたような記憶がある。
いつだったか覚えていないが、一度手に取って流し見した後、「これはなし」と思って棚に戻した。
なぜ今になって《億男》を読んだのか
前から《億男》が気になっていたわけでもなく、「映画が面白そうだから小説を読んでおこう」というわけでもない。
買う本がなかったから、たまたま買った。
それが《億男》を読んだ理由。
大きな期待をもって読み始めていないし、著者である川村元気氏についても、まったく知らない。
本当に、何の気なしに読み始めた。
《億男》は、めっちゃ面白かった
先に感想だけを述べると、《億男》はとても面白かった。
宝くじが当選し、3億円を手にした主人公である一男は、お金と幸せの関係を解き明かそうとする。
ざっくりいえば、そういうストーリーだ。
哲学的な問いをテーマにしつつも、読み味はサスペンスに近いので、かなり読みやすかった。
一男が今後どうなっていくんだろう?《億男》は、お金と幸せの関係をどのように解き明かしてくれるのだろう?と、読んでいて興奮してしまうくらい。
個人的な《億男》の感想
私が、個人的に《億男》を読んだうえで思ったことを書いていく。
ネタバレというか、《億男》という本の根幹に触れるかもしれないので、これから《億男》を読むという人は、ここから下を読まないほうがいいかもしれない。
でも、この記事を読んだほうが楽しめるという可能性も0じゃないので、そこは自己判断で。
《億男》その1.お金と幸せの関係
《億男》のテーマは、お金と幸せの関係だ。
はたして、お金を手にした人間は幸せになれるのか?
大金を手にした人間は、お金に支配されてしまうのか?
お金をもたない人間は、幸せなのか?
絶えず、問いが繰り返される。まさに哲学のようだった。
《億男》の中で一男は、お金のせいで幸せを失ったと考えている。
弟が残した3000万円の借金を肩代わりしてしまったがために、妻と娘に別居することになった。
3000万円の借金さえなければ、一男が根を詰めて働く必要はなかったし、娘のバレエ教室に反対することもなかった。
一男は、そう考えている。
《億男》その2.妻の主張
しかし、妻は違った。
3000万円の借金が理由で別居に至ったのではなく、一男がお金に支配されていく様に失望して、別れを決めたと言う。
妻は、一男の魅力はお金に支配されない素朴な姿だといった。
*
例え3000万円という借金を抱えていようと、幸せを見失うことはない。
同じ時間を過ごし、苦楽を共にすることに価値があり、それを忘れてしまったあなたはお金に支配されている。
例え3億円を持っていようと、3000万円の借金がすぐになくなろうと、それを忘れてしまったあなたとは幸せになれない
*
ざっくり言えば、妻の主張は上記のようなものだ。
お金のせいで幸せを失ったと考えている一男は、確かに、お金に支配されているのかもしれない。
つまり、一男にとってお金と幸せは関係のあるものだった。
《億男》その3.一男はお金に支配されていなかった
ただ、ここで差し挟まなければいけないのが、一男は、3000万円の借金を背負うまではお金と幸せを深く結びつけていなかったこと。
むしろ、お金によらない幸せを考えるタイプだったし、妻もそこを見込んで一男と結ばれたはずだった。
そんな一男がお金に支配されるようになってしまったのは、3000万円の借金を背負ってからだった。
リアルに想像してみてほしい。
3000万円の借金だ。
サラリーマンの平均年収が400万円なので、毎年100万円ずつを返済に回しても30年かかる。
毎年50万円ずつしか返せなかったら、60年かかるわけだ。
想像してみただけでも、ぐったりと気分が落ち込む。
この視点から、お金に支配されずにいられるだろうか?
いやもう背負った時点からお金に支配されているのだから、あとは支配から逃れるためにもがくしかない。
そして、もがけばもがくほど、お金の存在感は自分の中で膨れ上がっていく。
《億男》その4.お金と幸せの関係は程度による
何が言いたいかというと、お金と幸せはもともとそんなに関係ないけど、ある程度のラインを超えたら深い関係になっていくと言いたい。
私は、お金と幸せの関係は、その程度によって変わると思っている。
《億男》を読んで、なおさらそう思った。
幸せを保つための金額というものが、人それぞれはっきり存在する。
その金額が担保されている限り、人は幸せでいられる。
本当は、こんなことを言わずに「お金と幸せは関係ない」といいたい。
しかし、資本主義の社会において、お金と幸せを遠ざけようと意識しすぎると、むしろお金に支配された状態になってしまうのだ。
自分の幸せにとってどれくらいのお金が必要なのか?
自分がお金に支配されないだけの金額はいくらなのか?
多すぎず、少なすぎない、もっとも丁度いい自然な状態。
それを見極めることが、お金と幸せを遠ざける最も有効な手段なのではないかと考えている。
《億男》の+3億円は多すぎたし、-3000万円は少なすぎた。
《億男》その5.お金は幸せのための手段
また、お金はあくまで手段であり目的ではないことを忘れてはいけないと思う。
幸せという目的を手に入れるための手段であり、それ以上でも以下でもない。
そして、自分の幸せについてじっくりと自問したとき、それはどれくらいのお金が必要なのか?そもそもお金は必要なのか?
よく考える必要がある。
スポーツでも勉強でも仕事でも、目的と手段がすり替わってしまうことは往々にしてある。
手段と目的がすり替わって、いい結果になることなどほとんどない。
目的を見失っているせいで、結果という概念自体があやふやな状態だからだ。
お金はあくまで、幸せをつかむもしくは維持するための手段のひとつ。
《億男》を読んで、そう考えることが大事なんだなと再認識した。
《億男》その6.やっぱりお金と幸せは関係ある
3000万円の借金を背負う前の一男にとって幸せとは、大切な人たちと同じ時間を共有することだった。
例え3000万円の借金を背負ったとしても、一男の幸せが変わらなければ妻と娘が家を出ていくこともなかったのかもしれない。
借金があっても、大切な人たちと同じ時間を共有することはできるからだ。
しかし、やはり再度伝えたいのが、程度の問題である。
-3000万円は少なすぎる。
まったくもって不自然な状態だし、そのままでいられる人間なんていない。
そのことからも、お金と幸せは関係しているといえるだろう。
幸せはお金じゃないと主張した妻も、結局は一男と離れ幸せから遠ざかってしまった。
《億男》その7.【まとめ】皆お金に支配されている
《億男》の面白いところは、登場人物全員が、お金と幸せの関係に興味を示し過ぎていて、皆お金に支配されてしまっているところ。
本当に、お金と幸せが関係ないと考えている人間は(そもそもいないけど)、そんなことに興味を示さない。
お金と幸せについて考えれば考えるほど、お金に支配されていく。
《億男》では、お金に抗いながら幸せを求めてもがき続ける人間の様子が、細かく繊細に描写されている。
もし、お金と幸せについて悩む人がいたら、ぜひ《億男》を読んでみることをおすすめする。
もしかしたら、なにかヒントがあるかもしれない。